まるでおままごとのような日々は楽しくて
どうしてふたりで住んでいるのかを忘れてしまう程だった…
ある日の事
仕事を終えたチャンミンと駅で待ち合わせ
ふたりでコンビニに寄ってから帰宅すると
玄関に薔薇の花束が置いてあった
「…ぇ…?」
チャンミンは逃げるように後ずさり
俺はその花束を手にした
深紅の薔薇に白いカードがついていて
そのカードには
『やっと見つけた
チャンミン愛してる』
そう、書かれていた
「…ヒョン…」
真っ青な顔で薔薇を見つめるチャンミンは
今にも倒れそうで
俺は花束を近くのゴミ置場に投げ捨てると
一緒に部屋に入った
「…どうしようユノ、ここ、ヒョンに見つかった…」
「…大丈夫、大丈夫だから…」
「駄目だ、マンションに戻ろう、いや、マンションは、でも、セキュリティは、」
相当混乱していると思われるチャンミンを
そっと抱き寄せて
「安全な所に行こうか…」
「…安全なところ?」
「…そう、ちょっと待って…」
「ユノ、」
チャンミンを胸に抱いたまま
スマホで友人の名前を探す
「…いたいた…」
こんな事を他人に頼むのはとても申し訳ないけれど
安全を確保する為なら
頭を下げる事なんて簡単だ
「あぁ、シウォン?」
*****
警察官である彼はとても真面目だし
そして裕福な人間だ
セキュリティのしっかりしたマンションに住んでいるから
彼に匿って貰えれば
きっと安心して眠れる筈
彼の高級車が俺のアパートの前に止まり
あまりにも不釣り合いで笑ってしまった
「ユノも来てくれるんでしょう?」
「勿論だよ」
シウォンの車で彼のマンションに行くと
やはり俺とは住む世界が違うんだと感じる
彼の部屋は何だかゴージャスで
少し居心地が悪いけど
そんな事は言っていられない
「チャンミナ、彼は警察官なんだよ」
「…あぁ、覚えてる…」
「こんばんは」
「…こんばんは…」
チャンミンの手が
俺の手を離さないのは
それだけ緊張していて
動揺がおさまっていないという事で
「とりあえず食事にしましょうか」
「…チャンミン、何か食べよう?」
「…はい…」
シウォンの合図で
温かいスープが運ばれて来た
「…ここ、ホテル?」
チャンミンの疑問は尤もで
俺も本当にそう思う
だけどこの部屋は彼の住む部屋
料理を作るのはシェフで
運ぶのは多分執事…
多分、というのは
きちんと聞いた事が無いから…
「ユノヒョンと彼は同じ部屋でいいんですよね?」
「あぁ、それで構わない」
「それにしても…まさかヒョンから連絡が来るなんて…(笑)」
「…シウォン」
放っておいたら余計な事を言いそうで
とりあえず黙らせる
すると美味しそうな料理が運ばれて来て
彼の家の財力に溜息
黙々と食事を終わらせて
ゲストルームに行くと
チャンミンはベッドに座り後ろに倒れこんだ
「シャワーはあっちにあるから」
「そうだね、もう入っちゃう…」
「それがいい」
疲労感の漂う背中を眺め
小さく溜息
こんな事は間違っている
チャンミンはアイツが望む通りに別れたのに
今更復縁を望むだなんて
彼を馬鹿にするなと言ってやりたい
部屋を出てリビングに行くと
シウォンが優雅にソファーに座っていた
「急に、申し訳ない…」
「いえ、いいんです」
「あのストーカー男の事なんだけどさ…」
「…あぁ、彼ですか…」
*****
シウォンと話していたら
ドアの音がして
チャンミンの可愛らしい顔が少し覗いている
「どうした、チャンミナ」
「…ユノ、」
まるで甘えん坊だ
だけどそんな彼が本当に可愛くて
しまりのない顔をしている自覚がある
「…ユノヒョンがねぇ…」
「じゃあシウォン、頼んだから」
「…わかりましたよ…」
ゲストルームの鍵を掛けると
チャンミンを抱きしめて
頬にそっと唇を落とした
「シウォンさんって…」
「あぁ、古い友人みたいなもんだよ」
「…そう…」
チャンミンは何も言わず
俺をバスルームに押し込んだ
「…これは、早く入って来い、って事か…」
鏡に映る自分の顔は
驚く程にしまりのない顔をしていて
こんな顔もできるのかと笑ってしまった
シャワーを浴びて戻ると
チャンミンは嬉しそうに微笑んで
俺をベッドに誘う
自分の部屋の布団と違い
広いベッドだというのに
ピッタリくっついて
それが彼の不安を和らげるのなら
構わないと思うけど
俺はこんな状況で
「…寝れるのか…」
.

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