ある日の事
ユノ様が今日はシウォン様が僕と同じような子供を連れてくるからとおっしゃられた
「生け贄であった、という事にございますか?」
「いや、ヒチョル様が助けたようでな
シウォンに預けたのだが、シウォンもどうしたものかと困り果てて
そなたに助けを求めておる」
「…は?」
「同じ年頃の人間だ、友達になれるやも知れぬ」
「…友達…」
それはおのこであろうか?
それとも?
「早々に参るであろう」
「はい、ユノ様」
ユノ様の手が僕の頬に触れ
優しく唇が重なる
そっと離れて微笑むから
僕は胸が苦しくて動けなくなる
「…ユノ様」
僕は長椅子に押し倒され
再び触れた唇に翻弄される
「…ん、っ…」
「…チャンミン…」
ユノ様の背に手を伸ばし
触れるぬくもりに安堵すると
ユノ様は困ったようにおっしゃられた
「チャンミン、駄目だ、止まれなくなる…」
ユノ様は僕から離れ目を瞑ると
大きく深呼吸をして部屋から出て行ってしまわれた
「…ユノ様…」
僕も同じように深呼吸をして
それから部屋を掃除して
終わって一息ついた頃
シウォン様がいらっしゃったから
応接間に来るようにと呼ばれた
*****
「おぉチャンミン」
「シウォン様、ご機嫌麗しく…」
「堅苦しい挨拶は無しだ」
「ぇ?」
「チャンミン、キュヒョンだ」
シウォン様の隣に座るのは
僕と同じくらいのおのこで
「初めまして、チャンミンと申します」
彼、キュヒョンは僕をチラリと見て
「お前も妖しげな術を使うのか…」
「…は?」
「お前もコイツらと同じように
妖術を使うのかって聞いてんだよ」
「…わたくしは人間ですので、術なんぞ使えませぬ」
「…人間?」
「…はい」
「…そう、か、」
キュヒョンはそう言うと黙りこんでしまった
ユノ様もシウォン様も僕を見ていて
これはどうしたものかと考えていた時
テミンがお茶の用意を持って来た
「…ぁ、ユノ様
わたくしとキュヒョンとテミンで
少しお部屋に下がっても宜しいでしょうか?」
「…構わぬが…」
「キュヒョン、僕の部屋にいこう」
「…うん」
「テミン、お茶の用意をお願い」
「かしこまりました」
キュヒョンの手を引いて
部屋へと進む
「…なぁ、ここは何なんだよ…」
「…水の中にございます」
「何で生きていられるんだよ…」
「それは…存じ上げません…」
「僕は、生きてるのか?死んでるのか?」
「…わかりません…」
長い廊下を抜けて部屋に入り
キュヒョンを椅子に座らせた
「わたくしの名はチャンミンにございます
長雨の続く日に生け贄として川に落とされました」
「…は?」
「…目が醒めたらここにおりましたので
生きているのか、死んでいるのか
わかりませぬ…」
「生け贄?」
「…はい、龍神であるユノ様への贄として
わたくしは選ばれました…」
「…龍神?あいつらは神なのか?」
「…はい、ユノ様もシウォン様も龍神様にございます」
「…そうだったのか…」
「キュヒョン様は何故?」
「…様なんていらないし…
僕は乗っていた船が沈んで…
気がついたらヒチョルとかいうやつのところにいたんだ」
「あぁ、ヒチョル様…」
「…知ってるのか?」
「ユノ様よりも上位の神様にあらせられます」
「…アイツも神だったのか…」
彼、キュヒョンは
きっとまだ自分の置かれた状況が把握できず
戸惑っているのだと思う
確かに僕だって
水に落ちて死んだと思ったのに
水の底で暮らすだなんて
まるでお伽噺の世界だ
「失礼いたします」
「あぁ、テミン、ありがとう」
お茶の用意をしたテミンがやって来て
僕たちは沢山話した
お互いの生い立ちや
どんな家族と暮らしていたのか…
それはとても楽しい時間で
時が経つのも忘れてしまう程
「チャンミン様、そろそろ食事の準備をしに行っても…?」
「えっ?」
「わたくしは準備にまいりますので」
「あぁ、ごめん、ありがとう」
テミンが部屋から出て行くと
キュヒョンは僕を見て不思議そうに言った
「何でチャンミンはチャンミン様って呼ばれてるんだ?」
「それは…」
「チャンミンもテミンも人間なのに
どうしてチャンミンはチャンミン様で
テミンはテミンなんだよ」
「それはチャンミン様がユノ様の伴侶であらせられるからにございます」
「柚子さんっ!?」
テミンと入れ替わりにやって来たと思われる柚子さんに
僕もキュヒョンも驚いて
それからキュヒョンは言われた言葉に驚いて
大きな瞳を更に大きくして僕を見つめた
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