まだ産まれてもいな我が子に嫉妬して
もやもやしてぐるぐるして
そんなユノを可愛らしいと思ってしまった
「ユノこそ…わたくしより我が子を選ぶのでは?」
「それは無い
チャンミン、そなたが唯一無二だ」
「…なんと…」
唯一無二とおっしゃってくださるのか
この御方は…
「もったいないお言葉にございます…」
*****
それから子が産まれるまで
ユノはとても甘く優しく僕を包んでくれた
「チャンミン様、そろそろ予定日ですね」
「そうですね、わたくしに産めますでしょうか…」
「…何をおっしゃいます
ヒチョル様が安産だから心配するなとおっしゃっていたではありませぬか」
「…そうでしたね…」
そう、ヒチョル様がつい先日おいでになって
僕の腹に触れ
『親孝行な子だ…きっと安産だな』
そう言って笑ってた
*****
ふと感じた気配
それはヒチョル様のもので
ユノも気付いたようで部屋から出ていった
少しして戻って来たユノは
予想通りヒチョル様と戻って来た
「そろそろ産まれそうだから来たぞ」
「…まだ気配がありませぬ…」
「いや、そろそろだな」
「…そうですか?」
「ユノ、さっき言った湯の準備は出来たのか?」
「確認してまいります」
「…まて、駄目だ、間に合わねぇな」
「…え?」
「…ぁ…」
それは所謂陣痛と呼ばれるもので
突然の痛みに声も出ない
「来るな…」
「…え?」
「人間の出産とは違う…って言ったろ?」
「…ぁぁぁ…」
「…チャンミン…」
「いいか、これは親になる者のなさねばならぬ事
ふたりで力を合わせて頑張れ」
ヒチョル様はそう言うと部屋を出て行ってしまった
「ヒチョル様!?」
「っは、ぁ、ぁ、」
「チャンミン、大丈夫か
どうすればいいんだ…」
「…ゆの、落ち着いて…」
手を握るとユノは不安そうに僕を見て
汗の滲む額を拭ってくれた
「そうだ、俺が落ち着かねば…」
「っふ、ぅ、」
それから少しして
再びの陣痛
「…ぁぁぁぁぁぁぁ…」
「何処が痛い?ここか?」
「…っ、はぁ、ぁ…」
不思議なもので
ユノが僕の腰に触れた途端
痛みがすぅっと消えて
するん…と出た感覚…
「…ぁ…」
「…ユノ?」
「…これは…」
すると泣き声が響いて
産まれたんだとわかった
赤ちゃんを手にして微動だに出来ないユノ
すると扉が開いて柚子さん達が入ってきた
「まぁまぁ、可愛らしい赤ちゃん」
彼女達は手際よく赤ちゃんを綺麗にして
僕に抱かせてくれた
「…ちっちゃい…」
「…蒼色の瞳か…」
「…ヒチョル様と同じだ…」
「え?ヒチョル様と同じ?」
ユノは僕の言葉に目を見開き
我が子を撫でた
「…水神となる運命の子か…」
「…ぇ…?」
「ヒチョル様の次に…」
「…そんな、」
それはどういう意味?
すぐに手放さなければならないの?
産まれたばかりの我が子を?
「俺様はまだまだ水神をやめねえし」
「ヒチョル様っ!!」
「ユノが水神にならねぇって言ったから
俺様は頑張るって決めたのに
次が生まれたからって、はいそうですかって
やめたりしねぇよ」
「…ヒチョル様…」
「いいか、お前ら
出来る限りの愛情をもって育てろよ?」
「はい」
「親孝行な子だ、ちゃんと導いてやれ」
「はい!!」
*****
ある日の事
地上では雨が続き
ユノは忙しそうにしていた
そんな時に聞こえた『声』
それは助けを乞うもので
僕はいてもたってもいられず
走り出していた
川の中を声の方向に進む
すると溢れそうな川の側に沢山の人影が見えた
危ないから逃げて欲しいのに
どうして逃げないのだろうか?
不思議に思いながら僕は
泣きながら助けを求める川の為にチカラを使う
水面近くに浮かんだ時
何かが僕にぶつかった
「痛っ…」
それは流木などではなく
人の作った槍のようなもの…
「…え?」
それは一気に僕に向かって降ってきて
殆どが深く刺さった
「なん、で…?」
泳ぐ事もままならず
僕は濁流に呑み込まれて…
頭に直接響く人間達の声
『悪い龍をやっつけたから川は氾濫せんだろう』
…悪い龍?
それは僕の事なの?
『金色に光る龍はアイツのせいでいなくなったんだ』
…違う、僕は、
薄れ行く意識の中で
僕は再び金色に光る龍を見た…
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